地球と宇宙エレベーターの模型を持つ江上正教授
ロケットに代わる宇宙への輸送手段、それが宇宙エレベーターです。Orbital Elevator、軌道エレベーターとも呼ばれます。
人工衛星や人を乗せて宇宙へ力強く上昇していくロケットの打ち上げは、印象的な光景ですが、巨大なロケットの質量の95%は燃料です。運び上げる物資は全体のわずか1/20の重量。ロケットとは、極めて効率の良くない輸送手段なのです。しかし、地球の巨大な重力を振り切って宇宙へアクセスするためには他に方法がないのがこれまででした。
BS・CS放送を行う通信放送衛星、雲など地上の気象現象を観測する気象衛星、こうした衛星が飛んでいる人工衛星の軌道を「静止軌道」と呼びます。静止と言われるわけは、地上から静止軌道上の衛星を見上げると宇宙の一点に常に留まっている(=静止している)ように見えるため。静止軌道の人工衛星は地球の自転速度と同じ速さで周っているため、いつも同じ場所にあるように見えるのです。地上からは35600kmの高さになります。
この静止軌道上に宇宙ステーションとなる人工衛星を置いて、そこから頑丈なケーブルを地上まで垂らすとすればどうでしょう。宇宙ステーションは、地上から見ればいつも同じ位置にあり、ケーブルを伝って昇り降りすれば宇宙までロケットよりも容易にアクセスが可能です。
宇宙エレベーターと呼ばれるこの輸送手段構想は、1970年代にはすでに概念が発表されていました。しかし、一口に”頑丈なケーブル”といっても、静止軌道(実際にはそれ以上)まで伸ばしても自重で切れてしまうことのないケーブル素材がありません。1991年に日本人の研究者・飯島澄男博士が鋼鉄の100倍の強度を持ち、しかも軽い炭素繊維素材”カーボンナノチューブ”を発見するまで長らく宇宙エレベーターは空想上の産物でした。